高畑勲監督作品「かぐや姫の物語」を鑑賞。
スタジオジブリの映画作品を劇場で見るのは一体何年ぶりだろう。
今回は事前知識ほぼゼロで観ました。
鑑賞して感じたことを書いてみます。
■演出
原作は誰もが知っている有名なお話(竹取物語)。
イントロからエンディングまで、ほぼストーリーがかっちり決まっています。
これを魅せていくのは、実は難しいことなんじゃないかと思います。
そうなると演出やアレンジにウェイトが大きくなりますね。
演出の部分で注目していたのは、主人公のかぐや姫のキャラクターでした。
これまで竹取物語を絵本や学校の教科書で何度か読んできました。
にもかかわらず、姫の性格そのものの記憶が何故かスッポリ抜け落ちていることに気がつきました。
穏やかだったのか、物静かだったか、それともツンデレだったのか(笑)
ストーリーは知っていても、姫そのものことを全く知らないなぁ、と。
これまで映画化されたもので観たことがある作品と言えば、沢口靖子さんが主演された実写版「竹取物語」くらい。
沢口さんの若さあふれる魅力が作品で、これはこれで好きなんですけど、SFタッチだったように記憶しています。
http://www.youtube.com/watch?v=geNih56Yi6E
日本最古の長編小説とも言われ、成立が1000年以上前と言われていますから、長い歴史の中で人々の持つイメージも膨大なものでしょう。
そんな中、高畑監督が一体姫をどのように描くのか?
そこにこの映画の面白さのカギがあると考えていました。
人間を超越した存在。
一言で言えば、こんな感じでしょうか。
早いスピードで身体が成長し、お琴も唄も普通の人とは異なる飲み込みの良さを持ち合わせている。
貴族や帝を虜にする美貌。
瞬間移動や空を飛ぶ能力。
それ以上に僕が良かったな、と思ったのは幼児期の描写です。
山を駆けまわり、川で泳ぐお転婆娘として描くことで、後半の洗練された姿がグッと引き立ちました。
そのおかげで、前半が平安時代版マイフェアレディになりました。
これはこれでありなのではないかと。
■幸せとは?
人の幸せは、本人が幸せと感じてこそ意味をもつ。
育ての父親(竹取翁)は授かった姫の奇跡を体験するにつれ、彼女を高貴な娘に育てようと決意します。
そして姫のことを考えて、様々なものを与えます。
高等教育、貴族としてのマナー、広いお屋敷など。
また美貌を聞きつけた貴族、帝が求婚し、自分こそが幸せにできると豪語します。
財力や権力を駆使して。
でも、姫は周りが羨むほど恵まれた環境の中でも、決して幸せを感じることありません。
本当に幸せを感じたのは幼い頃、自分と一緒に遊んでくれた近所に住む男の子と過ごした日々。
わらべ唄を歌い、林の中へキジを追い込んで捕まえ、畑に忍び込んで瓜(?)のような瑞々しい野菜を食べた記憶。
共に泣き、笑い、悲しむ。
社会的地位や名声や権力などにまみれない、お互いに純粋な気持ちを持って付き合えた体験がそこにありました。
人が幸せを感じる瞬間は、誰かと一緒にいて楽しい、うれしい、気持ちいい。
そんな単純なことではないでしょうか。
権力、財力、地位、下心などを超えたところにある気持ち。
陳腐な表現ですけど、それが「愛」なのだと。
年齢を重ねるに連れて、私たちには様々なものがどんどんくっついてきます。
端的に言えば「欲」。
広いお家に住みたい。
大金持ちになりたい。
人より偉くなりたい。
向上心や目標として、欲を持つことは必要でしょう。
でも、それを手に入れるだけで本当に幸せになれるのでしょうか?
姫が都から抜けだして育った山へ戻った時、青年へと成長した近所の男の子と再会します。
姫は青年に言います。
「あなたと一緒だったら、きっと幸せに暮らせたでしょう」
姫は都で上流階級の仲間入りをしたのに対して、青年は時には盗むを働いてまでも暮らしていかなければならない過酷な生活。
ふたりの生活環境はあまりにも違っています。
だから青年は言います。
「おまえには俺らの生活はムリだ。」
ここで救われるのは、姫が幼児期の土にまみれた生活を完全に忘れたわけではなく、むしろ大切にしていて、青年の前でザクザクと草を刈るシーンがあること。
姫にとって、幼児期の体験がいかに大切なものだったのかがわかりますね。
結局、幸せとは本人がどのように感じるかではないかと感じます。
■荒々しい絵コンテに彩色
姫が絶望して、都を全速力で駆け抜けながら山に向かうシーン。
まるで絵コンテに彩色したような荒々しいタッチが、姫の激情とスピード感をうまく引き出していしました。
白土三平さんの劇画調の忍者マンガを読んでいるかのようでした。
■アニメと絵巻物の融合
キャラクターデザインが大きく分けて2つにわかれていました。
一つは高畑さん流のほのぼのとしたもの。
もう一つは古代日本(平安時代)の絵巻物に描かれたような人物像。
特に後者が面白いなぁ。
たとえば姫の教育係として登場した相模。
彼女はあきらかに平安時代の絵巻物に描かれたオタフクさんのようなデザインですw
まるで源氏物語や枕草子から抜け出てきたかのよう。
当時は眉を抜き、お歯黒をつけ、白い化粧をして下膨れの顔が美人とされていたと聴いています。
アニメっぽさと絵巻物っぽさ。
これを一つにして見せたことが面白い。
ラストでグッときました。
月に帰らなければならない姫。
月の住人の衣をまとえば、地球上の記憶が全てなくなってしまいます。
最後に懇願して、育ててくれた翁(おきな)と媼(おうな)との時間を乞う姫。
そして衣をまとった瞬間、記憶が全部なくなってしまう…と思いきや、月に到着する前にふと青い地球を振り返ると、目からは涙が。
記憶は完全にはなくなっていなかった、と思いたい。
このシーンは泣けます。
文句なしに泣けます。
この後、地球の人々は月を見上げては姫のことを思い出すことでしょう。
良い映画は、見終わった後に何日も後を引きます。
今回も見終わって3日も経ちますが、未だに考えさせられます。
あと引く旨さってやつですね。
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